8月3日。晴(はる)くんのおうちに、ねこがやってきました。
じゃーん!!
こんなかわいい坊やです。そして......。
じゃーん!!
その子のお母さんも。
これが、初めての猫をわが家に迎えたときの、晴くんのお顔。
どんな猫がやってくるのか、ワクワクして、この日を待ち焦がれていたのです。
一家で食卓を囲んでいたとき、お父さんとお母さんが「猫を飼うよ」と急に言い出して、どんなに歓喜したことか。晴くんは、小学6年生。兄弟は、高校3年生のお兄ちゃんと大学4年生のお兄ちゃんの、最終学年トリオです。もちろん、お兄ちゃんたちも大喜び。
やってくる日が決まると、さっそくカレンダーに「ねこさんくる」と書き込まれ、晴くんはカレンダーの「今月の目標」欄に勇んでこう書きました。
「ねこちゃんとの仲良し度UP・おせわを上手にする」
でも、何しろ一家にとって初めての猫なので、到着までドキドキです。
到着したのは、一家が揃った土曜日の夜。
待ってたよ。出ておいで~。
母さん猫と坊やは、ケージから恐る恐る出てきて、テーブルの下の椅子に隠れてしまいました。
でも、ふつうは軽くパニックになって隠れ場所を探しまわるそうで、これなら、大丈夫そうです。
そのうち、坊やが、チョロチョロし始めました。
晴くんの手から、スティックおやつも食べてくれます。
やったあ!
可愛い、可愛いと、言い続けている3兄弟。
探検を始めた坊やを見つめるお兄ちゃんたちの笑顔が、窓ガラスに映っています。
お父さんも、この笑顔。
この母子猫は、成田市の無農薬野菜を作っている農家さんたちが保護してくれたのです。
まだ1歳前と思われるノラの母さん猫は、4匹の子を春に出産。子育て場所を求めて移動していたと思われます。とあるおうちの庭に子育て場所を提供してもらいましたが、そのおうちのご夫婦は高齢ゆえ、猫を家に入れてやることはできませんでした。やがて4匹いた子猫のうち、2匹の姿を見えなくなり、夏の初め、残る子猫のうち、1匹が大けがをして農家さんに緊急保護されました。カラスに突かれたと思われ、前脚と後ろ足にマヒの後遺症が残り、今も通院中です。その子は女の子で、保護した農家さんのおうちの子になりました。
そして、農家さんたちは、「もう不幸な子を増やしてはいけない」と手をつなぎます。
地域のボランティアさんの協力も得て、母子猫を保護、母さんは手術を済ませました。譲渡先探しがスタートです。
これは、母子猫が預かり先の個人シェルター「homeforpaws」に着いたときの写真。坊やは傷だらけのノラ顔。お母さんは、若くしてわが子を守るために必死だったので、ちょっと目が尖がっています。
シェルターには、預かり中の元野犬や保護猫先輩たちがいて、とてもにぎやか。母さん猫と坊やは、最初はビビりましたが、すぐにみんなと仲良くなりました。
シェルター発信のSNSを見て、この母子のことを知り、「母子を引き離すのはかわいそう」と思い、2匹とも迎えることを決めたのが、晴くんのお父さんとお母さんだったのです。
坊やは、おとなしそうなお顔をしていますが、けっこう探検心旺盛で、あちこち探検しては椅子の上の母さんのそばに舞い戻り、また探検に行くのを繰り返しています。
1行日記を書き始めた晴くんの足元をちょろちょろ。今日の1行日記は、「家に猫が来ました。飼うのが楽しみです」。これから毎日、猫のことの1行日記になりそうですね(笑)。
「猫に宿題の邪魔をされること」が、晴くんの夢だったそうです。すぐに叶うよ。
お兄ちゃんたちの夢は「一緒に寝ること」「毛布の中に入ってきてくれること」だそう。
お母さんが用意した籠の中も、すっかり気に入ってしまいました。
おやおや、坊やにつられて、母さん猫も、室内を歩き回り始めました。やってきてから、ものの20~30分。シェルターで人馴れをしっかり終えているので、とっても順調な展開です。
初めての街の明かりを興味津々で眺める母さんと坊やの表情は、すっかりくつろいでいます。
この夜から、2週間たって、晴くんにその後を電話で聞いてみました。
母さんは「苗」、坊やは「田郎(タロ)」という素敵な名をもらったそうです。母さん猫の名は、瞳の色が「苗」の緑色だったことから。坊やの名は、一家が好きな絵本「タロとなーちゃん」からつけられました。
電話の向こうで晴くんの声は弾んでいます。
「タロちゃんとは、もうすっかり仲良くなりました。僕がソファーに寝そべると、おなかの上にやってきます。苗ちゃんは、抱っこはまだだけど、撫でさせるし、鼻先に指を出すとスンスン匂いを嗅いでくれます。お兄ちゃんたちはこれまでは家に帰ってくると『ただいまー』って低い声だったのが、『たーだいま~』ってすっごく高音になりました(笑)。夏休みが毎日、とっても楽しいです!」
ほんとだ、タロくん、すっかり末っ子のお顔ですね。
晴くんのお母さんとお父さんからも、こんなメッセージをいただきました。
「生まれてから外での暮らしの中で、過酷さもあっただろうし、苗は出産で大変な思いもしたでしょう。どんな景色を見て生きてきたのか。しあわせに仲良くとの思いから、この名をつけました。苗とタロがやってきたことで、家族に朗らかで優しい時間が流れていることが、予期せぬ嬉しいことでした。末っ子の晴は、毎日当たり前にしていたことをちゃんとしたいなと思うようになったそうです。初めての猫との暮らしでドキドキしていましたが、なんて嬉しくてしあわせなのでしょう。苗とタロに関わった皆様に感謝でいっぱいです」
成田の農家さんたちは、タロくんたちのお父さんと思われるバリバリのノラの去勢手術も済ませ、地域で面倒を見始めました。
大怪我をしたタロくんの妹も、障害は残りそうですが、すくすくとやんちゃに育っています。
みんなみんな、しあわせになあれ。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを
『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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苗ちゃんとタロちゃん、ご家族に甘えていっぱい幸せになってね!
by つくも 2024-08-20 16:00
電車のなかで読んでて、みんな幸せになっていく様子を思い浮かべて、嬉しくて涙が出そうになりました。ありがとうございました❤️
by シンママ 2024-08-20 17:11
幸せになった猫たちの話は、何度見ても心が和む。怪我した子猫までも保護して面倒を見てくれる方々にも感謝。それにしても苗ちゃんタロくん母子はそっくりの真ん丸お眼目、ただ、苗ちゃん母さんのほうが表情豊かな眼差しなのは年の功か?
by Y.M 2024-08-20 17:22
なんて温かいお話しなんでしょう。晴くんご一家も、成田の農家の方々も、保護施設の方々も…
お兄ちゃん達が、大きな声で「ただいま!」とご挨拶される姿を想像して、余りの可愛さに「くすっ」てしてしまいました。
小さな動物たちの持つ大きなチカラを感じます。
苗ちゃん タロくんが幸せになれて本当に良かった。
茉莉子さん、今日も心がぽかぽかです。ありがとうございます!
by ちぃ 2024-08-20 20:17
苗母さん、タロくん、親子で幸せになれて良かった!
それでもお外での子育ては大変なんですね、妹猫ちゃんも良くなっているとのことでちょっと安心しました。
人慣れしていない母さん猫はTNRでリリース... よく聞きますが(仕方がないのも理解できます)、
今回は本当に良い縁でしたね。
by ヤンヤン 2024-08-22 04:45
み〜んな、いっぱいいっぱいしあわせになってね❤ すてきな心あたたまる記事をありがとうございました♫
by ruineko 2024-08-24 10:47
思わず笑顔!(^。^)
たろくんも苗ママも平穏なにゃんせいをご家族といっしょに過ごしていってね〜すてきな物語のはじまりですね〜
by となりのねこ 2024-08-24 12:27
>つくもさん
苗母さんは、まだ1歳になるかならないかの年齢だそうですから、これまで外生活で我慢してきた分、うんと甘えて過ごしてほしいですね~。
by 道ばた猫 2024-08-27 15:24
>シンママさん
はい、今回の保護ドラマは、いろいろな方の手と手がつながってハッピーエンドを迎えました。
最初の一歩がなければ、何も起きませんでした。
by 道ばた猫 2024-08-27 15:26
>Y.Mさん
たしかに、まだタロ君は発散してない表情ですが、そのうち、うんとやんちゃになると思いますよ。大けがをした妹むぎがめちゃくちゃやんちゃですから(笑)
by 道ばた猫 2024-08-27 15:28
>ちぃさん
苗母さん一家のしあわせを喜んでくださって、ありがとうございます!
書かせてもらった私も、心がぽかぽかです。
by 道ばた猫 2024-08-27 15:30
>ヤンヤンさん
母さん自体が、(たぶん)外で生まれ、大きくなって出産したことが、まずよく頑張って生きてきたねと褒めてやりたいです!
by 道ばた猫 2024-08-27 15:33
>ruinekoさん
お母さん猫はTNRをされるのが一般的だけど、こうして子どもと一緒に迎えられるなんてめったにないこと。関わった方々に心から感謝です。
by 道ばた猫 2024-09-04 14:58
>となりのねこさん
そうなんです。ずっとこの先そばにいてくれる家族が増えて、晴くんはさぞかし素敵な青年になると思います~。
by 道ばた猫 2024-09-04 15:00