ラノくんと出会ったのは、春の初め。
成田での取材帰りに小腹がすいて寄り道した国道沿いの食堂に、彼はいたのです。田んぼや畑に囲まれた昔ながらの町の天ぷら食堂でした。
「マジョ―リ」の響きがどこか童話の中の異国めいた、この「馬乗里(まじょうり)」の地は、その名の通り、牧場がいくつかある農村です。
ラノくんは、捨てられたのか、さまよってたどり着いたのか、8年前にお店の前に現れた子猫でした。左前脚が、すでに曲がったまま固まってしまっていたそうです。
最初は、店の外でご飯をもらったり、裏にねぐらを用意してもらったりしていましたが、「いつの間にやらお店の中の猫になってた」と、スタッフの女性は笑います。
この方も、もう一人のスタッフも、共に猫好きで、猫と暮らしているとのこと。「とくに猫が好きと言うわけではなかった」店主とラノくんは、今では大の仲良しなのだとか。
スタッフの方が、そっと教えてくれました。
「店主は無口で、お客さんとはめったに話をしないけど、ラノとは、しょっちゅうしゃべってますよ(笑)」
その会話、そっと聞いてみたい気がします。
「うん、ボクたち、わきまえたオトコマエ同士、すごく気が合うんだ」と、ラノくんは言っているような。
「お父さんは無口だけど、やさしいんだ。ボクのベッドを、その時のボクの気分に合わせていろんなところに置いてくれるんだ」
店主が外に行けば、ラノくんも出たがります。
ラノくん、大きい!!
店主が、丹精の木や花たちの手入れをしているときは、いつもそばでじっと見ているラノくんです。
「ラノ」と言う名の由来、もうお分かりですか?
そう、元はノラだったけど、今はもうノラじゃないから。愛ある名前ですね。
ラノくんに会いにくるお客さんも多いのでは?
そう尋ねると、スタッフのかた曰く「この辺りのうちはみんな猫飼いだから、猫がいたって格別珍しくもないんですよ。宴会の時なんかラノはふつうにお客さんの隣に座ってるし、お客さんはたいてい帰りがけに撫でていくしね」
農家さんや牧場でネズミ除けに猫と暮らしてきた長い歴史のある農村で、ラノくんは、なんとも自然体で看板猫をしているのでした。
「これ、うちの子」と、スタッフの方が愛らしい猫さんの写真を見せてくださいました。
お孫さんが小学校4年生で不登校になったときに迎えた猫で、この子と毎日過ごしたおかげでお孫さんは少しずつ元気を取り戻し、今では毎日元気に学校に通っているそうです。
「猫って、そこにいるだけで、ほんとにすごいチカラをくれるよね」
同感です!!
「この辺通りかかったら、農村風景を楽しみがてら、てんぷら食べにまた来てね~」
ラノくん、もちろん、また行くよ!
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

『
猫は奇跡』
"ふつうの猫"たちが起こした奇跡の実話17選

『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを

『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。

『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。

『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!

『
いつもそばにいる猫』
描き下ろし猫スタンプが登場。猫たちがあなたのトークルームに寄り添います!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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